国東半島・六郷満山の南の玄関口となる杵築市。江戸時代、譜代松平氏の城下町として栄えた杵築は、谷間の商家街を挟むように、坂道で結ばれた武家屋敷がその名残をとどめています。この町で明治七年から続くただ一軒の酒蔵、それが中野酒造です。当時より仕込み蔵の近くに湧いた水は、国東半島の麓ならではの名水。地元の人たちはこれを「御霊水」と呼んでいました。さらに地下深く掘り下げると、200メートルの水脈からこれにも増して上等な深層地下水が湧き出ました。蔵人たちは、心を込めて“命の仕込み水”と呼び、その恵みを喜んだのです。
米の芯まで磨ぎ上げた酒米から、贅沢にしぼった吟醸酒の酒かすと水、これだけが材料となるかすとり焼酎「みろく」もまた、米と水に磨かれた本格焼酎です。焼酎でありながら上品な吟醸香が残り、それでいて飲みごたえのある本格焼酎としての出来栄え。日本酒と焼酎、その両方の特性が見事なバランスで出会う「みろく」の味わいが、最近とみに人気を集めています。そのバランスを生み出しているのが杜氏の小野東一さん。日本酒と焼酎、そのどちらも操れる杜氏であり、小野さんに学んだ多くの杜氏が今でも大分や福岡で活躍しています。蔵に入るとピカピカに磨き上げられた道具がこの杜氏の姿勢をうかがわせています。
いったん仕込みに入ると曜日も日にちもわからなくなるという小野さん。焼酎や酒が生まれる樽に声をかける毎日です。「味のある焼酎は何年かすると不思議に化けて美味くなる。スッと飲んでしまえる焼酎より、時間をかけて、ゆっくり、じわじわと味わう、そんな焼酎が作りたい」と小野さん。ロックや水割りも美味しいけれど、まずは生で味わってほしいといいます。 |
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